このプロジェクトは、3住戸を共同化することによって、全体としておたがいのプライバシーを適切に確保しながら、戸建て感覚の環境的配慮がより可能な建築となっている。経済的メリットとしても、少々広い宅地の購入を可能にし、建設コストも抑えられるため、ほどほどに都心に近く、環境のよい既成住宅地の中で住宅を得ることができたものである。当然そういった敷地は、バブルがはじけて地価が下がったとはいえ、まだまだコスト面では負担が重すぎる。しかし一般的な宅地としては敬遠される傾斜地や変形地は、平坦地に比較すれば地価はかなり安く購入でき、しかも敷地の特性を生かした表現豊かな住まいの設計を可能にした。
この住宅のロケーションは、阪神間の少し山手にさしかかる既成住宅地で、前面道路から一層分落ち込んだ斜面地の敷地であり、各住戸の玄関へは2階部分からアプローチする。全体は80~90m²程度の3住戸を組み合わせ、外観上は3住戸の区分は一見わからない、ひとつのヴォリュームの塊の建築である。各住戸はプライベートな外部空間を確保するよう、1階はふたつの住戸を敷地の東西に2分させ、直接地面に接する庭をもつメゾネットタイプの住戸とし、最上階の住戸はペントハウスから屋上スペースを使用できるようにした。
またもっとも見晴らしのよい、視界の開けた南東部は、前面ガラスサッシュで開放させ、各住戸のパブリックスペースを配している。それに対し、北西側外壁の鉄板シェルターの建築形態は、この3住戸全体を殻のようにひとつに包み込み、住戸のプライバシーを確保し、また有機的なイメージと機械的な乗物のイメージをだぶらせ、ロマンを感じさせるような表現を試みようとしたものである。実際的にはこの鉄板シェルターの曲面は、北側隣地に影響する逆日影曲線によって、その形状は決定されている。
各住戸内部は、フレキシビリティを保つため、間仕切りを少なくし、全体を2分に大別し、パブリックとプライベートなスペースを対照的に対比させている。外部に開放的なパブリック空間と、内部を包み込むような閉ざされたプライベートな空間を、回遊的または連続するようにおたがいに結びつけている。
この周辺も阪神大震災の著しい被害を受けた住宅地域内である。この住宅は震災以前から計画は進めれ、震災時は工事中であったが、幸い被害はなかった。現在地域の復興は進んでいるが、高台になったこの敷地から見渡すかぎり、特色のないプレハブメーカーの住宅の建設ラッシュであり、そのスピードに驚くばかりである。しかし、より深刻な問題となっているのは、狭小宅地や4m未満の不適格道路に接した宅地で、住宅復興はいまだに遅れ、そのうえ住環境的な改善は見られない。この小規模共同化住宅の試みが、そのような住環境でのひとつの解決モデルにならないかと思っている。
(健康な住まいコンクール優秀賞 受賞)