この個人住宅は、震災で復興されたちょうど二年目の去年末に竣工した住宅である。
元々は古い二階建て木造の日本家屋が建ち、二十五年前に増築されたRC三階建ての住宅が連結され使われていた。近頃少なくなった一つ屋根の下で三世代が住む家族、老夫婦とクライアント夫婦、子供二人の構成である。
阪神大震災で古い木造部の家屋は全壊したにもかかわらず、RC造の増築された住居部だけは無事に残り、ご家族の方々も全員無事ではあったが、しかしその結果、お互い長い間別々に住むという不自由な生活を強いられていた。
敷地のロケーションは、正面公道が名神高速道路と側道に接し周辺も密集した住宅地で、環境としてはそれらを取り込むことは望めないところといえる。
今回のこのNs' Arkは、その残された既存三層のRC造部にまた新たに増築する形で計画され、それを蘇生させることも眼目に置かれている。全体は庭を囲むように配置され、正面公道のある外側に対しては、静的で、覆い包むように閉鎖し、防御的に閉ざされている。反対に囲われた内側は、動的に全面開放のできる出入り自由な開口部と、そして二層部から直接庭に出れる高齢者に配慮した緩いテラス・ステップを設け、庭を楽しむことができるよう考慮した。
建物全体の構成については、既存部と新築部を空間的に、そして実際的にも縦動線としてつなぐ広いサンルームを設けることで、それが互いの緩衝帯となり、全体を連続させる装置的役割を担っている。一階はパブリックな用途となるべく、玄関ホールと応接、仏間、サンルーム、車庫、そして既存部分ではホビー的に使われる部屋が連続している。二階部はプライベートな家族室となる広いリビング・ダイニングが家全体の中心にあり、既存部の二階にあるクライアント夫婦の寝室とサンルームを通って連絡し、また反対側の最も近い場所に、老夫婦の部屋が設けられている。リビング上部の吹抜を通し空間的にも視覚的にもつながる三階は、二つの子供室と上下階をつなぐその吹抜空間で構成されている。
(大阪建築コンクール知事賞 受賞)