この住宅の建つ龍野は、姫路市内より西北に10kmの位置にあり、北、東、西の3方を山に囲まれた盆地の城下町である。自然発生的な宿場町から城下町の形態を整え、それを原形としながら市街地が形成され、街並み保存が推進されている地域である。
山並みと瓦屋根、白と黒の壁塀、そして醤油蔵群。これが私が最初に感じたこの町の印象である。それらがキーワードとして、そのままこの住宅の計画と形態に結びついた。
敷地は、もともと宿場宿の跡地であった。この周辺には、すでに改築されてしまった家屋もあるが、まだ軒を寄せ合う町屋の景観が比較的残されており、美しい自然風景と同様に、その景観を設計に取り込み、特性を生かすことは、ごくあたりまえのことに思えた。
周辺に見受けられる町屋型の住宅をもとに、その外観や表通りと裏庭をつなぐ通り土間を取り入れ、この敷地にあった宿場宿に近い屋根を設け、既存家屋に見る意匠のボキャブラリーをアレンジした。そしてプランとしては、ごく日常的に使われた土間のある生活習慣を設計の手がかりとした。地域の街並みの景観を崩さないように、現代性と歴史性をかけ合わせた再生を求めた。単なるそのままの再建では、テーマパークや映画セットのように、リアリティーをもたず不自然であると考えたからだ。
この住宅には、親夫婦とクライアント夫婦、子供の5人が住まう。1階は、親夫婦の寝室と水まわりのある黒板張りの離れ棟があり、通り土間を挟んで、スチールシートで覆われた表通り側の住居棟に分かれている。2階には、クライアント夫婦と子供の寝室がある。その離れ棟と住居棟の各寝室をつなぎ、客人のもてなしや家族の中心の場となるのは、細長い居間と土間のある台所である。そして表道りに面して玄関を兼ねた通り土間へのアプローチ、および趣味と仕事のための小さな部屋がある。この通り土間からは、直接つながる「立体的土間」と考えた2階テラスに続き、山並みと瓦屋根の風景を楽しむ展望デッキへとさらに続いている。周囲が家屋の密集しているため、中庭と空に開いたオープンスペースを中心に、囲い型の構成とし、その内部と外部は、土間、デッキ、連続格子により相互に開放しあう関係を演出している。街並み保存の方法は、一方で自由性を規制し硬直化を伴う。それに対し、現代的解釈によってどう再構築するのかが保存の課題であろうと思う。