この住宅の敷地は、六甲山系の東端・岩倉山の中腹にあり、周辺は東から南にかけて宅地開発をまぬがれた雑木林が山の斜面づたいに続いている。宅地ブロックの東南角というロケーションは、六甲山の優美な姿を中景として、遠景に遥か大阪湾をも見渡すことを可能にしている。このパノラミックな眺望が今回の住宅の性格を決定づけている。9mm厚、全長20mのスチールシートが、半径約 6mの曲率で敷地に沿ってほぼ90度曲げられ、この建物の外観を特徴づけている。この2枚の2次曲面は、構造からもち出すことで9.5mの無柱の横連窓を実現し、内部空間に開放的なパノラマ・ビスタを提供している。本来視角を遮へいするものである鉄板が図象的な解釈によって反転し、逆に開放的な開口部を印象づける役割を担っている。
一方、平面計画上においてもこの反転が意図されている。玄関からホールにかけて外部が内部に貫入し、中庭で再び垂直方向に外部へとつながる空間の連続は、入口から中庭まで床を同一材、壁を同色にすること、中庭立面をフラットに処理することで表れている。その内部空間によって囲われた外部(中庭)からは、内部(居間・キッチン・寝室1)を通してもうひとつの外部(パノラマ・ビスタ)を見通すことができる。同時に、機能コアとなるべき部分にヴォイドを配することで、周辺諸室が連結され、回遊する動線がつくり出される。また、中庭の透明なガラス・ボックスは、周辺環境の季節感をそこに投影し、住まいの内に陽光を導き入れる環境装置ともなっている。
そして建主の家族構成は2世帯なのだが、中庭を間に挟むことで、必ずしも明確な境界を設定することなく、緩やかな分離と共有を比較的簡単に実現している。寝室1と和室とを、居間と寝室2とを縦方向につなぐふたつのサーキュレーションは、2階のレベルで再び結合し上下層を回遊する動線となっている。さらに、中庭を中心として1階部分の西側を母親が、2階部分の北側を若夫婦が利用できるように計画され、中庭につながったオープンなキッチンと、パノラマ・ビスタをもつ居間というコモン・スペースを、共有することを可能にしている。
すなわち、プライバシーの確保と利便性、あるいは自然環境の導入と快適性という都市住宅における問題を、鉄板という材料と、中心に中庭を配置する方法で明快に解決しようとする試みである。