この民家には、縁側に面して先代の趣味と長年の手入れで作り上げられた貴重な和風の庭が残されていた。その遺産を受け継ぐ形で、モノコックの現代茶室を新たに庭先に設けた。既存の繊細な庭木を痛めないように、茶室本体は工場制作とし、この庭先に置くように配置した。全体は、スチール・シートの膜屋根で囲われた半外部の待合い部分と、床と二畳の鉄のストイックな室内亜空間に分かれている。この茶室は、非日常的空間としての現代のひとときの瞑想空間であり、季節がうつろう自然との対話の場となる。そして、既存の庭に回遊性を生み、自然に親しみ拡がりのある生活が演出できた。
私が使うスチール・シートは、建築公体であり、あくまで乗り物のような加工製品として捉えられ、彫刻のような鉄を鉄としてのインパクトの強い表現は避けている。この素材の長所は、高強度とCAD化の進歩によって高精度の工場制作が可能であること、そして、どこでもある程度の品質が保て、重量で表記されほぼ価格も変わらず、一種のオーダーメイドのプレハブ化に対応できることである。この茶室は、車で運搬可能な高さと幅のボリュームサイズで大きさが決定された。全体は、工場で制作し、9mm厚のスチール・シートを要所で局面と曲げ加工を入れ、強度を持たせ一体構造となるようにした。そして、ふたつに分解して運び、そのままこの庭先にクレーンで吊り込み、ふたたび繋ぎ合わせて、建具を入れ、畳を敷き短時間で完成した。ここでは、内外それぞれに異なる表情を持たせ、内部は加工過程や溶接跡をそのまま残した、侘びた仕上がりとし、外部は乗り物のような滑らかな工業的な塗装の仕上げとした。