Column

スチールシートの建築

2003.09

 N.ペブスナーは、近代建築の起こりを建築家によらないエンジニア達による鉄造のロンドン博の水晶宮や、エッフェル塔、フォース・ブリッジを紹介しその解説を始めている。これらが語りかける構造の美しさは、機能美を示す建築思想の根源にも繋がり、そして、鉄造建築の可能性は、単なる建築のストラクチャーの変革に限らず、古典のマスから近代のヴォリュームへと建築空間の意味までも変えるものであった。エンジニア達が開発した技術は、建築の発想と建設のための手段と成りうるが、また、その可能性は、時として創造を超え、建築の価値観を変えることもあるのであろう。このペブスナーが紹介した鉄造物を考えると、我々がしばし忘れていた建築が持つ本来の大切な役割であったはずのフロンティア精神や理想の建築というもの、そして人類の見た夢を実現し、ユートピア社会へと導くものが伺える。
 鉄は、近代建築にとって切っても切れず、鉄がなければ近代は始まらないのは誰もが認めるところだろう。急速に鉄の使用が拡大し発展をするのは、19世紀末─20世紀の大量生産とその加工技術を進歩させた大型機械の出現である。蒸気機関による強力なエネルギーは、圧延加工による鉄をシート状にした大判の鋼板を生産し、さらに曲面のプレス加工による構造鋼管が考案され、鉄はそれまでの補強材的役割から建築を支える主構造材の役割を担う。そして、更に薄いシート加工によって、ものを包み込むことを可能にし、自在な形の意匠対応としかも軽くて安定感のある強度を持つ、その両面の優れた特性を備えた素材として更なる飛躍をとげた。特に20世紀に著しい発展を遂げるのは、当時新素材であった押出し成形のアルミシートとスチールシートを使った金属の蒸気船、機関車、自動車、飛行機などの乗り物である。そして、機械がかつてこれほどに飛躍し、また建築に影響を及ぼした時代はなかろう。 ル・コルビュジェは、テクノロジーがもたらした自動車を時代の象徴とし、ギリシア神殿と対比させながら住宅を住むための機械と評したほどである。この機械力の爆発的なエネルギーは、人力を超えた人類の新たな未知なる可能性と期待をもたらせるものであっただろうし、また、乗り物は、単に人を輸送する目的だけではなく、明るい未来への希望と夢を与えたであろう。当時のエンジニア達は、未来をイメージし夢とユートピア社会を求め、日夜研究に励みながら発明していただろう。そしてその精神は、モダニズムにおけるデザイン思想の重要な拠り所となったことは間違いなかろう。
 建築は、人を自然の猛威から身を守りる自然とは常に対立する対象であった。乗り物は、自然に対立的ではあるが、当然、機械仕掛けで動くのだが、一方で人工自然を目指してか、人の機能拡張をうまく補い、動きという自然系の生体物に近い。そして、例えば、自然摂理を受け入れた流線型のような柔らかな曲面を持つ有機的形態のイメージで形作られたのではないかと思われる。
 19世紀末のアール・ヌーヴォーは、エコロジーの自然思想と、工業のテクノロジーの両者をうまく組合わせ、新たな形態の追究と有機的関係を築いたと思える。そして、建築は、いつの時代も新材料を駆使しながらエコロジー的な自然界の秩序性を求めている。また、このエコロジー的な捉え方である相対的であること、或いは境界を定めない一体性は、現代が求められているキーワードでもあり、人類が機械と関わり始めた初期近代から延々と受け継がれている建築テーマでなかろうか。テクノロジーは、建築の形態自体を、”集積的構成”よりも単純な自然系に近い”一体的構成”へと還元されて行くようである。
 建築は、本来、現場で一品生産される固有の敷地に建設されるものである。しかし、熟練工による現場加工は特殊性を帯びつつあり、経済性も伴わない状況にあるといえる。新たな課題は、建設現場の簡略化に伴い、さらに安全性と効率の追求から、可能なものはできる限り工場製作で造られ、手間を軽減しより単純化した工法へと進め、輸送方法とジョイナーによる組立方式に移行している。 鉄は、最近の加工技術の発展と品質の確かさを考えれば、扱いやすい材料で工業化に適した材料といえる。
 スチールシートの建築は、そんな建築の工業化に適し、基本的に船舶の船室空間を覆う鋼板と同じように捉え、意匠性と構造体が一体のデザインとなるモノコックな主構造材とその外壁をスチールシートの特性を生かした自由な形態が可能な意匠性と構造的強度を持たせたスチールシート膜で覆うつたものである。
この構造は、実際の計算上から、柱と梁のない面構造として成り立たつが、ここでは、実際ではないにしても構造モデルとして乗り物の船舶や列車、車、飛行機などのモノコックモデルの一体型の建築形態を考えている。 現状では、まだ法的規制上柱梁による主構造材で全体は構成されているが、外壁のスチールシートをカーテンウォール方式のように上下梁の固定し、このシートの上下間を固定して下地材を無くしスチールシートのみのモノコック的構造の膜外壁へとし、特殊工法やハイテク技術の必要のない普通の鉄工所の技術レベルの範囲を一脱しない方法で考えている。そして、工場からの輸送上、数枚のパーツに分解され、作業上、最も良いサイズ、例えば、鋼板の規格寸法と運搬上の道路幅で一枚パネルの最大幅が決まり、または、そのジョイント位置で決定されます。それぞれのシートパーツをボルトで繋ぎ、一面の外壁に組み上げ、そのジョイント目地部を全シール溶接を行い、スチールシートの一体系のファサードが出来る。そこで懸念されるのは、断熱とサビで、発泡ウレタンの断熱と、橋梁や船舶に使用している錆止と塗装を行っている。そして、更なるモノコック建築への可能性と展開を目指したい。